渚のさむらひ 三人ヲトメ
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


     終わりのついで



日本の夏が暑いのは、何もここ最近の話ではなく。
殊に、地形の関係で地獄のごとく暑いのが内陸の盆地。
山地を這い上がって来る途中、地熱を吸い上げてますます盛んになった気団が、
北は日本海側からも南は太平洋側からも押し寄せるため、
どっちからの風が吹こうと暑さに変わりはなくて。
そこで、京都や奈良など歴史も古い土地には、
それなりの過ごし方というのもあって。
家屋の中に風の通り道を作る設計なんてのは昔からあるし、
夕方の打ち水や、簾に簀の子という建具への工夫も古来よりのもの。

 「あと、舞妓さんや芸者さんたちは、帯を胸高に絞めてますよね。
  あれって、顔とか頭とか、
  肩から上の汗を一時的に停めるのに効果抜群なんですって。」

 「さようか。」

緋色やオレンジの、ハイビスカスだろうか少し大きめの花が散った柄が南国風の、
白い肩を出したチューブトップにサマーニットのボレロを重ね、
ボトムはお膝が隠れる丈の、更紗のフレアスカートという。
いかにも避暑地のお嬢様といういで立ち、
愛らしい日傘まで差している七郎次は、
そんな自分の少し先を行く勘兵衛の、
楊柳地のシャツに覆われた広い背中が眩しくてしょうがなく。
じっと見ていたいのに、
何故だか…時折海の側を向く横顔に気づくと、
そそくさと俯いてしまう弱腰ぶりで。

 “こういうカッコしてるのがいけないのかなぁ…。”

それとも、人影が少ない静かな場所柄のせいだろうか。
都会の繁華街だったなら、腕を組んでなきゃ はぐれかねない時もあるし、
短いスカートのせいで、
ミュールの細高いかかとでも足りずという迂闊な背伸びも、
ぐるぐると体を回して周囲を見回すことも危険な身となれば、
何でも肩代わりしてやろうぞとばかり、
こちらがいつでも視野の中にあるよう、お顔や目線を向けててくださるし、
それが心地いいことでもあるのにね。

  ―― そして、そのせいだからと
     ちゃっかり半分、身を寄せてもいられるのにね

どうしてかな、誰かが見ている訳じゃない。
勘兵衛様だって、お名を呼べば 何だと振り返ってくれるはず。
今回 彼女らがやらかしたこと、
危険な事態だったとの把握もなさった上で、
相変わらずのお転婆ぶり、少々呆れはしたようだったが、
無事に済んだのだし少しは考えてもいるようだしということか、

 “肩の線とか、横顔の線とか……。”

堅く尖ってはないから、怒ってまではいないって、そのくらいは判る。
今朝早く、こっちが一段落したからと、
東京にお留守番の佐伯さんへと電話をしておいでだったが、

 『こっちもあまりの暑さのせいですか、
  大きな犯罪やらかそうって輩も盆休みのようですんで。』

担当の当番も遠いし、いい機会です、
2、3日ほどそちらで羽伸ばして、溜めに溜めた有給使って下さいな…と。
返事も待たずで切られてしまったと、苦笑をしていらしたから、
お言葉に甘えて、
こっち同様の1週間はさすがに無理ながら、
数日だけならと滞在して下さるようだったし……。//////////

  「  …ろうじ、シチ?」

  「あ、ははは、はいっ!」

何も話してなんかなかったけれど、見つめ合ってさえなかったけれど。
同じ空間、同じものを見聞きしてるんだってだけで、
日頃のお転婆がどこかへお出掛けしちゃってたほどに、
ひっそり音無しの様子でいられたらしく。
そんなこちらをいつの間にか立ち止まった勘兵衛、
パラソルの柄を回し、楚々としていたのがいかにも微笑ましいと、
目許を優しくたわめて見守ってらしたご様子で。

 「えっとぉ……。/////////」

あああ、せっかく勘兵衛様ご本人がおいでなのに、
何でぼんやりしちゃうかなと。
俯いてのつま先を見下ろしたまま、
心のうちにて自分へ こらこらこらと、
お叱りの鞭撻 厳しく構えていたところ、

 「せっかくの夏休みも、あまり構ってやれなんだな。」

 「あ………。////////」

これが違う人からのお言いようだったなら、
家族サービスし損ねてるお父さんみたいだと、
割と即妙な言い返しをしつつ笑えたのにな。
どうしてかなぁ、
物凄く気を遣っていただいたんだなぁって感じて、
胸の底から じんわり暖かいの。
そんなことなんて考えもしない人だと、
思ってたからじゃあないけれど。

  だったら、だったで。

思ってたってわざわざ言う人じゃないって思ってたのかな。
勘兵衛様がどれほど思いやりのある人か、考え深い人かちゃんと知ってる。
だから、放っておかれても辛抱できる。
大人で含蓄の深い勘兵衛様にどれほど信用されているかが、
今の自分の一番価値あるステータスだから、
すぐそばで見守られていなくとも いい子でいられる。

  でもでもそれって、
  前世を思い出したから、なのかなぁ。

だって、よくよく考えたら、
すっぽかしや大遅刻へ、細かい説明をされたことは少ない。
あまり口外しちゃいけないことだし、
ましてや自分で言うことでもないにしたって、
怪しいくらいむさ苦しい外見ながら、実は物凄い辣腕警部補だってことも、
同僚の佐伯さんのほのめかし話でしか知らない。

  でもね、あのね?


  「?」

  「〜〜〜〜〜。/////////」


  ほら、ほらほらほらvv

小首をかすかに傾げて、んん?って。
ほんのちょっとだけ口許をほころばせて、
ほんのちょっことだけ目許を瞬かせて。
どうした?って、何だい?って、目線で問うて下さる時の、
男臭くて精悍だのに、不思議と優しくもあるお顔は、
何もかもを思い出すより前から大好きだったし。
頼もしい勘兵衛様のこと、
でもでも どうして気になるのかなぁって。
まだちょっぴり煙草臭いところとか、
あちこちのポケットに小銭を入れておいでのところとか、
新聞なんかに集中していて、
人の話を聞いてない時がたまにあるところとか、
どこをどう見ても立派なおじさんだし、
時々、説明も何も後回しにして…こちらを押しのけてでも
“まずは”って やることやってから、すまんと謝る不器用さだし。

 “結果として守ってもらえた、
  強引でなかったら突き飛ばされてたと判ってから
  謝られてもねぇ…。”

そんな乱暴で質実剛健なお人は初めてで。
なのに惹かれてやまず、お顔もお声もするするっと好きになった。
まだ何も思い出せていなくって、
だからこそ、不思議で不思議でしょうがなかったネンネの自分を、
それだけで納得させたお顔だったのだけれど。

 “……やっぱり、ただのおじさんですのにねぇ♪”

含羞んでいたものが、不意に くすくすと笑い出したものだから、
今度は勘兵衛が置き去りにされてか、

 「如何したか?」

具体的に訊いてみたけれど。
金の髪を潮風になぶられ、白い指でそれを押さえる姿が、
何とも愛らしいだけじゃない、
最近微妙に大人びても来た年下の恋人さんは、
いいえ何でも…と かぶりを振っただけ。

 “判っておるのだろうかの。”

過去を思い出したとはいえ、まだまだ浅いそれなのだろう、
それは屈託なく微笑うお顔の、なんとも罪な稚さか。
当時もそして、今の生でも、
手段を選ばず手を打って来た、言わば自業自得の不器用さから、
気がつきゃ随分と擦り切れた身となった自分には、
何と目映く、初々しさが過ぎる存在なことかと。
含羞みも照れ隠しも同じほど瑞々しい笑顔が向けられるたび、
こちらまで胸底を温めてもらいつつも、
勿体ない話だという、寂寥に似た罪の痛さも多少は感じる勘兵衛であるらしく。

 「? 勘兵衛様?」
 「ああ、いや…。」

怪訝そうな顔をされていては世話はないと、

 「兵庫殿へ誤解させたあの木刀、やはり久蔵が買い求めたのか?」

ついつい、話を誤魔化しており。

  ええ、何でも訊き込みの最中に目に留まったからで、
  アンテナペンしか操れない、膂力のひ弱さを何とかしたくて、
  こっそりと素振りの練習を構えていたらしい。

 「?? あやつの本道はバレエであろうに。」

こちらは本心から“腑に落ちぬ”というお顔をする警部補殿へ、

 「何を仰せか。
  勘兵衛様がいちいちあの子へからかいかかるからですよ。」

 「…そうなのか?」

 「それでなくとも口先八丁の勘兵衛様、
  言い合いでは勝てない相手ですものね。
  こうなったら是が非でも刀での決着つけてやると、
  そうと思い詰めた結果じゃないんですか?」

それへばかりはどっちの味方もしづらいですよと、
あの、かつての剣豪をそんな気持ちにさせてしまわれた張本人様へ、
せっかくの渚、最愛の御方との浜辺の散策という図だというに、
ちょっとばかり意地悪そうな半目になった、白百合さんだったりしたそうです。



   皆さんは、この夏、いい思い出ができましたか?






   〜Fine〜  11.08.20.〜08.25.


 *そんな〆めにしといて言うのもなんですが、
  昨夜はPCがご臨終になりかかり、凄っごい肝が冷えたもーりんでした。

  冗談はさておき(いや冗談ごとじゃあないんだが)
  何だかややこしい顛末の事件だったのに、
  無理から凝縮しようとしてお見苦しかったという感がしてなりません。
  もっと尺を取って、細々と展開させるべきネタでしたよね。
  こういう方面へも短気なところが出ちゃうとは、年食った証拠かなぁ。

 *ここも書き漏らしですが、
  大人の皆さんは、そこはやはりお仕事があるので、
  2、3日で先に帰ってしまわれた訳で。

  「昨日、姿が見えなかった間、何してたんですか?」
  「え〜? 街道沿いの骨董屋さんを覗いてただけですよう。」
  「俺は…一子がいたし。//////////」
  「お、それでも赤くなるなんて、あやしいな。」
  「〜〜〜〜〜っっ。///////」
  「そ、そういうヘイさんは、ゴロさんと何してたんですよう。」
  「わたしは」

  「わたしは?」
  「鬼百合さんの意地悪〜〜〜〜。/////」

  こらこら、お嬢さんたち。
(苦笑)

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